2015年8月8日土曜日

『日本のM&A 理論と事例研究』

服部暢達(2015)『日本のM&A 理論と事例研究』日経BP社


<きっかけ>
・会社の先輩がM&Aの大変さと面白さを教えてくれて、自分も興味を持った。


<読む前に期待したこと>
・海外M&Aにおいて、日本企業が失敗したポイントはどこか知る
・M&Aで気をつけるべき点は何かを知る
・論文のテーマになりそうなポイントを探す
・M&Aが成功したといえるためには、買収後どのような財務指標を見ればよいか知る
・日系保険会社による米国保険会社買収が相次いでいるとのことだが、深堀りする際に、自分からどういった情報を探しにいけばよいのか、フレームを手に入れる。


<実際に読んでみて>
・実際に失敗した事例は説明されていないものの、「マテリアル・アドバース・チェンジ」という、重大なマイナス方向の変化があった場合、違約金なしで買い手が買収を停止できる条項は、練らないとだめだと気が付いた(pp300)。

・2004年にUFJホールディングスが傘下のUFJ信託銀行を住友信託銀行に売却する際、基本合意書に案件の実行方法や、価値評価に重大な影響を及ぼし得る保証・表明・補償条項の合意などは全くなかった。その後、この売却案件は流れたものの、アドバイザー費用の請求(数億円程度)が妥当と考えられる損害賠償において、UFJホールディングスは25億円もの違約金で和解したという(pp302-304)。ただし、M&A契約書で定める違約金は、あっても最終の正式契約書で合意されるものであるとも著者は述べる(pp308-309)

・投資銀行のアドバイザリーとしての利益相反確認(コンフリクトチェック)を行う(pp455-464)。
(1)直接的な利益相反の確認
①投資銀行が、売り手と買い手双方のアドバイザーになっていないこと
②投資銀行が、競合する買い手のアドバイザーになっていないこと
③投資銀行が、売り手Aと競合するB社が別のC社を購入する計画であることを知っており、C社がそれを拒んだ場合、A社がC社を購入することになっていないこと

(2)間接的な利益相反の確認
①投資銀行が、重要なビジネスの主幹事に就任している場合、当面いかなる案件においてもクライアントの反対側に立つことができないこと(クライアントが売り手の場合、投資銀行が買い手側のアドバイザーにならないこと)
②投資銀行が、買い手の条件が似たような案件を扱っており、重複する競合する二つ以上の案件を扱わないこと
③投資銀行が、過去の案件を担当した関係で知ったEPSの情報から、売買の計画があることがわかっても、この情報が十分古いものになるまでは、クライアントの反対側のアドバイザーにはなれない。

・着手金の相場は10-30万ドル程度。月額報酬は1-3万ドル程度。着手金と月額報酬の両方が設定されることは通常ない(pp474)。

・売り手アドバイザーによる過度な圧力に注意(pp484-486)

①守秘義務契約締結の段階から、「買い手候補は多数いるので、早くしないと買収審査にも呼べない」と圧力をかける
②一次入札前に入札価格帯をヒアリングし、「そんな値段では入札する意味がないので、値段を再考するか、入札をやめたほうがよい」などと圧力をかける
③一次入札後、買収審査会場において、「データルームインデックスに対する追加要求リストについて買収審査終了後にさらなる追加は認められない」と圧力をかける
④買収審査会場において、実は入札した買い手候補は1社しかないのに多数あるように見せかける
⑤二次入札前に、「二次入札では最終契約書の雛形に対して、そちらとしてこちらが飲んだ場合には直ちに調印できる、これ以上追加のない完全なコメントを入れて提出しろ」と圧力をかける
⑥二次入札後、「価格は一番ではないが、売り手の社長が貴社の文化が従業員のためになるので是非貴社に売りたいと言っているので、次のステップに行くために価格を一番の買い手に近づけてくれ」などと言って言葉巧みに価格を釣り上げる
⑦二次入札後、実際には相手のコメントをすべて飲むことができないので最終契約書の文言について、ここから実質的な交渉が始まるのだが、そのタイミングで2週間程度の短期間の独占交渉期間を設定し、短期で決定させる圧力をかける

・日本鉱業(現JXホールディングス)によるグールド買収は、米国での電子回路用電解銅箔製造市場の需要が減退しアジアにシフトしていったことから、一度も黒字化することなく清算した(pp494)。

・三菱地所は、ロックフェラーグループインターナショナルの売り時と買い時を間違えた(pp496-497)。

・ソフトバンクは、キングストン(1996年買収、1999年売却)、ジフ・デービス・パブリッシング(1994年買収、1996年売却)でのM&Aで失敗しているが、ヤフーやアリババでのM&Aで多額のキャピタルゲインを手にしている(pp504-505)。

・NTTコミュニケーションによる米べリオ社の買収は、6000億円の暖簾の減損処理を行った、日本企業による海外M&Aの最大の失敗例である(pp505-506)。

・ここまで書き出してみて、暖簾の減損損失を計上するのは、監査法人との話し合いで決まることだけれども、買収した企業を売却するかどうかは、経営陣は失敗を認めたくないので、なかなかできないことだと気がついた。思うに、ソフトバンクは、「M&A失敗の定義」が買収前から設定されていたのだと思う。2-3年で売却しているのも、失敗事例で挙げられていた企業の中でも早いほうである。IBMも同様、PC事業やHDD事業を絶妙のタイミングで売却した(pp597)とあります。


・失敗から共通要因として検討すべき項目が記載ありました(pp578-593)。列挙します。

①今が本当に買い時かどうか?
②現金一括で購入方法はないか?
③PERが妥当かどうか?
④買収プレミアムが、類似案件と比較して高すぎではないか?
⑤買収先が所属する業界に将来性はあるか?
⑥契約書は万全か?
⑦買収した事業を理解しているか?

・M&Aの成否は、累積超過収益(CAR)による分析が主流である(pp596)。

・成功のための5条件の記載も見つかりました。

①M&Aは負けから始まる投資であることを肝に銘じる。
②買収後に対象会社のCFを根底から変化させて企業価値を大幅に高める必要がある
③経営権は、50%越えの株式を購入して必ず掌握する
④現地の経営者任せにしない。CEOとして自分で経営する。
⑤市場での正当な報酬を支払う(アメ)が、重要な経営方針策定には関わらせないせない(ムチ)といった戦略を持つ


<その他>
・自分が買い手であれば、買収先に対して監査法人が出しているマネジメントレターを過去に遡って見せてもらうとともに、パスした項目についてもヒアリングしたいと思った。

・IFRSでは、パーチェス法が採用され、暖簾の定期償却は行わない一方で、日本の会計基準では、暖簾は定期償却を行い、PBRが1となるように強制的・機械的に償却処理する。これは企業の公正な価値を正しく反映していないと著者は指摘する(pp285-286)。ふむ。だからといってIFRSが完璧かというとそうではなくて、IFRSには「行き過ぎた時価会計」の側面があるという(pp288)。社債の価値が下がった場合、負債が時価評価により減少するということで、貸方で収益が発生してしまう。業績が悪化し、倒産確立が高まった場合にその他包括利益が増えるのは、実際の状況を表していないようにも見えると指摘される(pp288)。

・誤植かな。ページが多いから校正大変なのかもしれないけど、編集者がんばれ。「すなくとも米国で基本合意書(LOI)段階で違約金の定めに合意した案件が多数存在するなど問ということは到底考えられない。」(pp307、傍線はごりら)また、pp454には「いわゆるM&A成功の条件、をいろいろな角度から考えてみたい」とあるが、句点の場所がずれているような気がする。

・ソフトバンクのボーダフォン買収は、買った瞬間に投資金額のおおむね半分が含み損(pp350)となっており、失敗するだろうと著者は見通していたが、iPhoneの独占販売により大成功になった。

・アドバイザーの顧客側の義務は、下記が通例らしいが、少し厳しいと感じた(pp480)
①本件を検討する社内での議論や決定をアドバイザーへ全面的に開示すること (←買取したいと思っている金額の最低額も教えないとだめなのか?)
②本件検討にあたって対外接触窓口を当該アドバイザーに一本化し、他のチャネルで交渉しないこと (←経済的合理性が損なわれるのでは?)
③本件が成就しない場合でも、契約終了後例えば2年程度以内に本件が成就した場合、成功報酬を支払うこと(←これは納得。でも抜け道はありそうな気がします。)
④本件が成就した場合の関連ビジネスに関する第一拒否権をアドバイザーに与えること

第一拒否権は、日本語で説明したサイトを見つけることができませんでしたが、ウィキペディアを見ると、ある提案が行われる際に最初にお伺いを立ててもらえる権利、と読めました。ウィキペディアの例では、下記のとおりの例があります(日本語訳はごりら)

「安部はボーに1百万ドルで売るつもりの家がある。しかし、カールはこの家についての第一優先権を保有している。従って、安部は家売却について、ボーに売る前に、カールにまず1百万ドルで購入してもらえるかどうか提案しなければならない。カールがこの提案を受諾したら、カールはボーの代わりに家を購入する。カールが拒否したら、ボーは1百万ドルで家を購入することができる」

理解が違ってたらまた更新します。

この理解が正しければ、、(4)は、関連ビジネスである資金調達、買収後のIPO、最売却については、担当した投資銀行にまずお伺いを立てないといけないわけですね。

・ブリヂストンによるファイアストン買収、イオンによるタルボット買収は、『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』では失敗事例として記載されていたが、本書では成功事例に位置づけられていた(pp549-553)

・「M&Aは負けから始まる投資」であるという言葉が響いた(pp590)。





今日のインプット

なし

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